鈴見純孝

株式会社ラナ
代表取締役 鈴見 純孝氏

PROFILE

‘86年、24歳の時に「株式会社ラナ」を創立する。ディズニーキャラクターをはじめ、取り扱うキャラクターは多数。東京・大阪・香港に拠点を置き、独自の観点から幅広いビジネスを展開中。’06年、イタリア生まれのキャラクター【Rody】のライセンスを取得。日本を中心にアジア13カ国及び、北米でのライセンス管理を行っている。その他のライセンス管理ブランドとして、【RASMUS KLUMP】、【Snap-on】などがある。また、’94年より、モータースポーツ業界でもウルトラマンレーシングを皮切りに、キャラクターを用いたレーシングチームを次々と企画展開。’10年からはエヴァンゲリオンレーシングチームを立ち上げ、スーパーGT及び、鈴鹿8時間耐久ロードレースに参戦を果たす。

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ホビー・グッズ業界を牽引するリーダーたちにフォーカスを絞り生の声をお届けする、カフェレオ 内山田の対談企画。第5回目のゲストは、数々のヒット商品を世に送り出し続けるキャラクター業界の中心人物、株式会社ラナ 代表取締役 鈴見 純孝氏が満を持して登場!ご自身がメディアに登場されることはあまりなく、開始前には「面白い話ができるかどうか…」と心配されていたご様子でしたが…何のその!「基本は工作の延長線上」という信念から生まれるアイディアとアクションの先で、「必然」の如く紡がれて行った鈴見氏を中心としたストーリー。「本当にそんなことがあるのか!」という程の驚愕の連続でした!鈴見氏にとっても「自身を振り返るよい機会になりました」とのことで、他所では聞けないであろう秘話も飛び出しました。ぜひ最後までお楽しみください!

[スピーカー]
株式会社ラナ 代表取締役 鈴見 純孝氏
株式会社カフェレオ 代表取締役 内山田 昇平
取材日:2015年10月28日 場所:ラナ
構成:里見 亮(有限会社日本産業広告社)

5時半になると自身で勝手に作った企画開発部で、若くてイキのいい人たちに声をかけて集まっていました。

内山田 昇平(以下/内山田):今日はよろしくお願いいたします。

鈴見 純孝氏(以下敬称略/鈴見):こちらこそ、よろしくお願いします。

内山田:鈴見さんはあまりメディアに出ない印象がありますが。

鈴見:そうですね。僕はあまり出ないですね。

内山田:お忙しい中、貴重な機会を頂きありがとうございます!今日はいろいろなお話を伺えたらと思います。

鈴見:こういう対談とかあまり得意ではないもので……。面白い話ができるかどうか心配ですがよろしくお願いします。

内山田:まずは設立のきっかけみたいなところからお伺いできればと。今、設立何年目ですか?

鈴見:28年目ですね。はじめは、キャラクターの仕事をやろうと決めて始めたわけではなかったので、そういう面では……考えていたらできていなかったでしょうね。たぶん、あのままの勢いでずっとやっていたから続けて来られたんだと思います。
僕が大学1年生の時に親父は病で他界してしまったのですが、もともと親父は工場をやっていて、大手弱電メーカーさんの協力工場としてモノを作っていました。殆どの部品や資材は支給されるのですが、一部の金属部品は社内で製造していたので、金属プレス機がありました。パートさんがベルトコンベアに乗せて組み立て作業を行い、完成品としてパッキン詰めまでするお仕事です。それこそ、中学生の頃にはアルバイトとして、ベルトコンベアの前で一工員となり働いたこともあります。

内山田:その頃にモノ作りの一連の過程を体験されていたのですね。

鈴見:そうですね。親父は早くに亡くなってしまったけど、とにかく日曜大工というかモノ作りが好きな人だったので、子供の頃から竹とんぼや竹馬を作ったり、庭の木が枯れたらその木でトーテムポールを作ったり。そんなことで、モノを作るということはずっとやっていました。たぶん、今僕がやっている仕事というのは、その工作の延長線上にあるんだと思うんですよね。

内山田:「工作」の延長線上というニュアンスですね。なるほど。

鈴見:当時は高度経済成長期の「メイド・イン・ジャパン」のモノ作りで、そのメーカーさんと同じように工場も大きくなって行ったようです。しかし、身体を壊していた親父が亡くなった頃には、時代は第一次円高ブームとなって業界限らず、どんどん海外生産に変わっていってしまいました。結局日本に残るものは少量多品種の仕事ばかりで……。大学卒業後、親父の会社で2年間程経理の仕事をさせてもらったのですが、経理だから見えるんですよね。いろいろと。利益を見て「何でこんなに割りに合わないんだ?」と感じていましたね。

内山田:もうそのくらいの歳の頃から経営的な視野で見ていたんですね。

鈴見:まだ経営目線という訳ではなかったとは思いますが、「同じモノを作るなら、もっと付加価値の高い、オリジナリティ-なモノを作りたい」と。まぁ、その頃は簡単に考えてしまっていたんですけど……。それと同時に、周りの上司は小さい頃からオムツを替えてもらったような人ばかりだったので(笑)、そこから脱出したいなというのもありました。そんな中、工場は朝が早いのですが、夕方5時には終わるので、5時半になると自身で勝手に作った企画開発部で、若くてイキのいい人たちに声をかけて集まっていました。ボロい部屋を一つ借りて、掃除して、鼠色のボロい机持ち込んだ企画開発部で。

内山田:ちょっと『秘密基地』みたいな。

鈴見:そうそう。(笑)ある時、丁度会社で余っていたステンレスの材料を使って、「これで何か作ってやれ!」と思ってできたのが『社長命令』という栓抜きでした。小太りの社長をモチーフにした栓抜きで、卓上でクルクル回って止まった人に「罰ゲーム」みたいな今思えば大したことの無いモノなんですが、それを真面目に面白がりながら商品にしていましたね。それが、まぁ今から考えるとうちの会社の第一号商品だったんですよね。

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内山田:なるほど。

鈴見:当時は下請け会社だったので、一般に売るところなんて全くないし、ノウハウもない。心斎橋筋商店街のおもちゃ屋さんも2店しかないから、そこがだめだったら着物屋さんからレコード屋さんまで、もう端から端まで売り歩き回りました。商品がステンレスで50個入りで1箱2kgくらいあって、それを2箱だから計4kg持って歩き回っていました。

内山田:若いからできたみたいな。(笑)

鈴見:ですね。(笑)とあるおもちゃ屋さんのおじさんが、「問屋行ったんか?」と言ってくれて、問屋さんをご紹介いただいて。アポ取って行った時に、自分の作った商品が「ファンシー雑貨」「パロディ商品」というカテゴリーだと初めて知るんです。自分ではカテゴリーを意識して作っているつもりがないから、「そういう分類されるんだぁ」と思ったのですが、それがこの業界に入ったきっかけでした。これ話すと結構引かれます。(笑)

内山田:すごいなぁ。一つ一つが原体験なんですね!モノ作りから経理、企画から営業まで、「商売の原体験」を一気にまとめてやってこられた感じですね。

「サブライセンスでもお願いします」と即答していたら、今はなかったのかなと思いますね。

鈴見:その栓抜きを作っていなければ、今全然違うことやっていたかもしれませんね。実際は、全く買ってもらえなかったのですが。ただ、その時にファンシー雑貨とかパロディ商品を他にもいろいろ見たり、東急ハンズさんに行って「あっ、このカテゴリーか!」と感じたり。そこからですね、パロディ要素が強い大阪流の洒落が効いた商品を自分たちで考えながらいくつか作リ出して。そのうち徐々に問屋さんとの取引や売上も増えて行き……売上と言ったって一日に手書きでノートに書けるくらいなんですけど。で、「ファンシー雑貨か、面白いなぁ」と思って自分で会社を作りました。「何とかなるだろう!」くらいな勢いで。その際に学生の頃からの親友を道連れにしたのですが、30年近く経った今も専務として頑張ってもらっています。

内山田:それが、ラナさんだったのですか?

鈴見:そうです。それから、徐々に売上は伸びて行ったのですが3年間くらいはまだまだで、キャラクターなんて扱える身分ではなかったですね。パロディ商品ばかり作っていたのですが、たまたま売れたのがゴルフボールだったんですよ。当時はバブル期の後半で、打ちっぱなし(練習場)に行くと、ハイヒールを履いた女性がちょっといやらしそうなおじさんに連れてこられて、ハイヒールのまま打っているという。(笑)

内山田:たぶん若い世代の人たちには解らないと思うんだけど、こう昭和のね、クラブのホステスさんとかいたり。(笑)

鈴見:そうそう。(笑)それを見て、じゃあ消耗品のゴルフボールをファンシーの世界に持ってきたら面白いんじゃないかな?と思った訳です。コンペもいっぱいあったし、その景品とかにね。ゴルフボールにいろいろな表情の顔書いたり、「美人専用」とか「スーパーショット!」「秘打」って書いたり。その後は調子に乗ってスイカ柄のゴルフボールとか、サッカーボール柄とか…。そのうちにティーも付けようとなって。ティーが身体なんですよ。ティーアップするとマスコットみたいになって、これがかわいいんです。それが大ヒット商品となって、1年間はゴルフボールしかやらなかったですね。毎日会社行くと机の上でセットアップして、その日に出荷といった感じで、丸一年それだけでしたね。

内山田:へぇ。それが最初のブレイクスルーですか?

鈴見:そうですね。売れるきっかけは晴海埠頭でやっていた頃のギフトショーでした。初めて「挑戦しよう!」となり、小さな3m×3mのブースを出したのですが当時の僕らには出展料も安くないわけで、節約しなければいけないから、棚は段ボールをコの字型に2段に積んで自分たちで作りました。(笑)

内山田:誰しもそういう経験をしているんですね。やっぱり。

鈴見:で、その当時の円谷プロダクションさんがたまたまブースに来てくださって、「これ面白いね。『ウルトラマン』やろうよ」と言っていただいて、もう「本当ですか?!」みたいな感じで。「ぜひお願いします!」と言ったら、「じゃあ後日、某社さんから連絡してもらうから」ということだったので、何で直接じゃないのかな?と思い聞いてみたら、「もうすでにライセンス契約をしているので、そちらからサブライセンス契約という形で商品化をやってもらったら、変わりないですよ」ということでした。そうなんだ……と一瞬悩んだのですが、結局断ってしまいました。やるのなら直接やりたいと思って。実はその後すぐにすごく後悔をして「えらいこと言ってしまったのではないか!?」と。何で断ったかというと……深く考えたわけではないのですが、大手電化メーカーの下請けが嫌で、自分でモノを作りたいと起こした会社なので。

内山田:サブライセンス云々の条件が理由ではないと。

鈴見:そう。やるのなら直接でないと!と何か思ったのでしょうね。すると、1時間くらいしたらその方が戻ってきてくださって、「大手の某社を紹介すると言ったのに断るというのは興味がある」と言ってくださり。それと、この段ボールで作っているブースも。(笑)

一同:(笑)

鈴見:それから、商品化は別として後日遊びにおいでということになり、喜び勇んで後日会いに行ったのですが、そのブースに立ち寄ってくださったのが、その後社長、会長になる円谷一夫さんでした。結局ウルトラマンでの商品化はだめだったのですが、アニメの『ウルトラマンキッズ』というキャラクターでゴルフボールを商品化させていただくことになりました。うちのキャラクター商品第一号ですね。それから、いろいろとチャンスをいただいたので、円谷さんには何か恩返ししたいなぁと考えるようになって、おもちゃの世界やウルトラマンの商品もいっぱい研究するわけですよ。すごいなぁと思う商品がいっぱいあるのですが、もし僕らが直接やりとりをさせてもらっている円谷さんへ恩返しできることって何だろう?と考えたら、良い商品を作るということはもちろんですが、今まで他社でできなかった商品をやらなければ価値はないと思ったので、そこにずっと集中しました。そこで、大人用のウルトラマンとして『ビッグマネーバンク』というものすごい大きな貯金箱を作ることにしました。内山田さんならわかってもらえると思うのですが、目とかカラータイマーとか、ウルトラマンタロウなら胸の黄色いポチポチとか、普通なら色塗りで終わってしまうようなところを、全部ABS樹脂で再現していきました。これは絶対他社さんだったらやらないだろう!ということをやりました。ウルトラセブンでもアイスラッガーがちゃんと取れるとか。今ではそんなギミックも当たり前でしょうが、20数年前ですから工場泣かせでもありました。

内山田:わかります。(笑)こう……職人魂というやつですよね!

鈴見:ですね。それと、商品の頭の後ろに「 ©マーク」 が入っていたのですが、「子供ってこんなん喜ぶのかなぁ?」と思って。今なら見逃してしまうと思うんですけど、当時すごく新鮮な気持ちで感じました。たぶんピュアだったんでしょうね。子供が見たら、『頭の後ろに文字があるよ!』ってねぇ……?子供に関係あるのか?と思ったんですよね。そこで、円谷さんに「いるんすか?これ」と聞いたら、「そりゃそうだよねぇ」となって、「こういうのは足の裏でいいんじゃないですか?」(笑)と言って、その形にさせていただきました。自分たちが生きて行くためにはそういう大手さんができないだろう所をやろうと、徹底していましたね。

内山田:結果的に一つのカテゴリーを育ててきたということなんですね。

鈴見:セールスも全然違いましたね。それまでもゴルフボールは売れていましたが、キャラクター商品ってこんなに売れるんだ……というくらいに。そこで、ちょっと欲が出てきて、『ドラえもん』とか、『仮面ライダー』もやりたいなと。(笑)

内山田:でも自然な考えですよね。横展開させるということは。

鈴見:形がハマるし顔丸いなとか思って。でも、どこに話を持って行ったらいいか分からなかったんですよ。「自分で調べろよ!」って話なのですが。そこで何をしたかというと、円谷さんに行って「ウルトラマン売れたから、ドラえもんとか、仮面ライダーもやりたいんですけど…」って相談したんですよ。(笑)

内山田:すごい話ですね。(笑)

鈴見:顔は笑っておられましたが心境はどうだったんでしょうね!?(笑)でもそのまま受話器取って電話してるんですよ。小学館さんに!今から考えたらほんとありえない話ですが「ちょっと面白い人がいるから今、大丈夫ですか?」みたいな。「今」ですよ!そして、そのまま自分の車に乗せて、小学館に連れて行ってくれました。同じように東映さんもご紹介いただいて。それがきっかけで、ドラえもんと仮面ライダーのゴルフボールの商品化に繋がって行きました。

内山田:いや……あるんですね、そんな話!ブレイクスルーに入る時って、勢いは当然あると思うのですが、よく『運』も大事と言うじゃないですか?でもお話伺っていると必然的というか、運や勢いを含めて流れが作られていくような感じでしょうね。

鈴見:こういう話をするのは、たぶん公では初めてだと思うのですが、その当時いろいろな噂が立つ訳ですよ。大阪人が現金積んでウルトラマンのライセンスをとるのに雨の日も風の日も円谷さんの前にいるとか、いろいろな版権を取得する為に銀座のクラブに連日接待してるとか、終いにはフェラーリまであげたとか!(爆笑)

内山田:鈴見伝説ですね!(笑)

鈴見:銀座のクラブなんて行ったことないし。

一同:(笑)

内山田:それだけ目立ったということですよね。でも有り難い話ですね。

鈴見:ほんとですね。あれは面白かったなぁ。キャラクターがそうして広がって行って、それぞれ商品も売れるようになって行きました。ただやはり『ディズニーキャラクター』での商品化をやってみたかったので何度も門を叩いたのですが、やっぱりだめで。でもある日、ディズニーさんから電話をいただいて、担当者がお二人で来社されて「ディズニーの中で毎週企画会議があり、いろいろな商品を買って来て机の上にバーッと広げるのですが、その中にいつも御社の商品があって、面白いメーカーだなとずっと気になっていたんです」と言っていただきました。ほんと、嬉しくて!絶対恩返ししなければあかん、というつもりでやりましたね。

内山田:ディズニーさんとの取引はモノ作りをする企業として一つの大きいハードルのような感じがしますよね。

鈴見:大きいですね。だから、あの時のギフトショーで円谷さんから声をかけていただいた時に「サブライセンスでもお願いします」と即答していたら、今はなかったのかなと思いますね。あの時に一つ大きな明暗が分かれたなと思っています。

内山田:人生や会社の岐路ですね。

人を喜ばせるには、ビジネス感覚だけでなく、如何にエンターテイメントを組み込めるかが重要だと思います。

内山田:僕個人のラナさんのイメージってどちらかと言うと、先ほどの噂じゃないですが雑貨やキャラクターグッズのメーカーさん達の中でも華やかで、商社的なイメージがあったんですよね。ただ以前にも鈴見さんのお話しを伺って、もう生粋の『モノ作り屋』というのが分かりました。「モノ作りとしてのメーカーなんだな!」と。これはすごい印象的でしたね。

鈴見:そうですね。基本、メーカーですね。だから香港にも会社つくってもう20年以上になりますが、モノ作りはずっとやってきて、最初は『メイド・イン・ジャパン』で作り出したけれど、これからは海外でやらなければだめだという頃が来て、結構早くに判断しましたね。

内山田:一連のお話を伺っていると『恩返ししたい』というフレーズがよく出てくる気がしますが。

鈴見:ほんと、円谷さんやお世話になった方へは『恩返し』したいんですよ。

内山田:そういう「原体験」や「気持ち」の部分は、社員が増えてくるとどうしても伝わりにくくないですか?

鈴見:それはね、感じる……。社内でも知られていないことは多いと思います。うちに今いる社員もディズニーキャラクターをはじめ、様々なキャラクターが揃っている上で入社してくるから「違うキャラクターをやってみたいですね」とか簡単に言うけど、どの口が言うねん!って感じになりますね。(笑)

内山田:わかるわかる。(笑)今あるものをやれるってことに対して、すごいその……どれだけのプロセスが詰まっているか!ということなのですが。

鈴見:まぁ、本人達はわからないですよね。

内山田:それはしょうがないですけどね。

鈴見:しょうがない。(苦笑)

内山田:でも『会社の原体験』って、ほんと大事なんですよね。

鈴見:ほんと今ね、会社が中途半端に大きくなってくると、「モノ作りの人」「デザインする人」「生産する人」……と分かれてしまうので面白くないですね。やっぱり、そういう意味ではマルチにできる人間が面白いもの作りますよね。

内山田:ラナさんは多くのヒット商品を世に送り出しているわけですが、やはりその中でもドラえもんの時計『Doratch』についてお伺いしたいと思っていまして。

鈴見:ドラえもんの時計は、元々は大手時計メーカーさんが商品化されていたのですが、ある時版元さんに呼ばれて、「鈴見さん、時計できる?」と言われたんですよ。作ったことはなかったけれど、たぶんできるだろうと思って「できますよ」と答えて。(笑)キャラクター時計として面白みがある企画を考えてみてくれとのことでした。そこで版元さんと何度も打合せを繰り返し、生み出されたのが「『Doratch』というブランドを立ち上げ、彼の誕生日の2112年9月3日に21,120円で年間1~2本限定発売しよう!」という企画でした。しかもギミックをしっかり付けて。初年度は「どこでもドア」をパカッと開けて……ギミック的には手で開け閉めしなければいけないのですが。(笑)もう一種は偏光フィルムを使って20秒毎にドラえもんが消えたり浮いたりするものとかも作りました。これは面白かったですね。

内山田:売れましたよね?

鈴見:そうですね。当時はまだ、インターネットがない時代だったので、通販で売りました。雑誌に広告打って全部FAXで受注しました。

内山田:社内で通販の受注対応をするというのは初めてだったんですか?

鈴見:初ですね!当時はドラえもん人気がすごくて売れる自信があったのですが、2万円以上する腕時計をこれまでの雑貨問屋さんに流通させる訳にもいかず、思い切って月に5誌くらい雑誌広告を打って直接販売することにしました。でも広告を打ち続けなければだめなことが分かり今後の展開を考えていた時に、テレビの番組制作のご担当者から「ドラえもん好きのタレントが出演するので番組内でDoratchをプレゼントしたい」との依頼があったので提供しました。で放送日を聞いたら、その時間がワールドカップの日本対韓国戦の裏番組だったんですよ!よりによって!

内山田:まさかこの日かと!(笑)

鈴見:うゎ……と。でも日本代表戦観たいよなぁと。(笑)ところがオンエアの翌日会社に行ってびっくりしたのがFAX用紙がないんですよ!注文がすごくて。で、用紙替えたらその用紙もなくなるくらいまだ続いて……。テレビの力をすごく感じたし、これは面白いビジネスだなぁと思いましたね。

内山田:鈴見さんのお話を聞いていると何かの節目をきっかけとしてグーン!と一気に行きますよね。

鈴見:それからずっと続けてDoratchも18年になります。

内山田:続けて行くということがすごいですよね。

鈴見:僕は、しつこいですからね。そういう意味では、ほんとにしつこいです。(笑)

内山田:飽きないってことですか?

鈴見:飽きないですね。

内山田:この業界の傾向として飽きっぽさが作用して新しいモノを生み出す人も多いとも思うのですが。

鈴見:あぁ……それはよくわからないなぁ。

内山田:鈴見さんはどちらかというと深く追っかけて行くタイプなんですか?

鈴見:僕は始めるのは遅いんだけど、やり出すとしつこいんですよね。レースの仕事もそうだけど1994年にウルトラマンレーシングチームを鈴鹿で走らせたんですよ。なぜやり始めたかというと、円谷さんとお仕事を始めて、商品の許諾もいただくのだけど、やっぱり大手さんが番組の提供をしているということで、メインどころの商品化はなかなかできないんですよね。理由を聞くと「スポンサードしているから」と。なるほどなと思って。ある時レース関係の方と知り合った時にいろいろ話を聞いていると、鈴鹿の8耐の動員が今はだいぶ減って寂しくなってしまっているので盛り返すような企画が欲しいと。理由を聞くとファンの男性たちが結婚して子供が生まれてバイクから遠ざかってしまっているらしいんですね。ではそこに、ファミリーとして呼び戻そうよということで、あるチーム関係者に円谷さんをご紹介してウルトラマンレーシングチームが生まれたんですよ。ウルトラマンのライダースーツを着させて、バイクを走らせたんですよ。

内山田:それはすごい!というか楽しい!

鈴見:そして自らそのスポンサーをやらせていただきました。これ、スポンサーですからね。言わばテレビの中のヒーローをサーキットのヒーローにすることで、カテゴリーにとらわれず商品化の許諾をいただくことになりました。

内山田:あぁ、そういうことになって行くわけですね。一つの手法ですね。

鈴見:そうですね。ちょっとした変化球ですけど。それからTシャツやらいろいろなグッズを作って実際にそのサーキットで販売しました。ウルトラマンレーシングは5年くらいやって、何年かブランクがあった時の2003年に阪神タイガースが18年ぶりに優勝しました。ちょうどその時に僕がずっと応援していたウルトラマンレーシングを一緒にやったチームが8耐で優勝するんですよ。これも何かの縁だなぁと思って阪神さんと話をして、2004年に阪神タイガースレーシングチームを作りました。それも普通だったら背番号Tシャツなんて絶対触れないところなんですが、「阪神タイガースレーシングチーム」の背番号Tシャツだから商品化させていただきました。これも変化球ですよね。

内山田:なるほど。確かに。

鈴見:そして、2006年にダメもとでディズニーさんに話を持って行ったら『トイストーリー』で許可をいただいて。ほんとは『カーズ』をやりたかったんですけど。(笑)ちょうど映画が公開されるところで、いろいろ難しくて。ただし、SUPER GTをやって欲しいと。4輪に関してはワンメークレースくらいのクラスでの参戦を考えていたので相当悩みました。GTで一年間走らせるには費用は一桁違いますからね。でも結局8耐とSUPER GTでトイストーリーレーシングチームをやり始めました。それなら「3年計画でチャンピオンをとってやる!」ということになったのですが、デビュー年に8耐で2位をとって、2年目にSUPER GTでシリーズチャンピオンをとって、3年計画が2年で終わってしまったんです。正直出来過ぎです。そこで、3年目にディズニーさんと改め話をして、晴れて『カーズ』ですよね、ライトニングマックイーンをGTで走らせたのです。間違いなくこの数年でファミリー層の来客数を伸ばせたと自負しています。

内山田:鈴見さんの『企画屋』の一面が、レースの部分ですり込まれている気がします。

鈴見:とにかく赤字にならないビジネススキームを作りたいと思うんですよ。でも、ビジネス感覚だけでは人を喜ばせることは難しいですよね。如何にエンターテイメント要素を組み込めるかがやはり重要だと思います。そういう面では今年で参戦5年目になるエヴァンゲリオンレーシングチームは我々の集大成ですね。

内山田:アニメもキャラクターもレースも、皆、オタクと言えばオタクだし、好きなものが集まっているわけだから、融合的なものってありますよね。

鈴見:そうですね。それはあると思います。

内山田:あとはそこに踏み込む勇気。当然、資金もいるのですが、その決断ができるか?ということが大事なのでしょうね。

キャラクターの域で留めずキャラクターの力を一つ変化させることができれば…ワクワクするじゃないですか。

内山田:レースもそうですが、鈴見さんはいろいろなことをやられていて、『Rody』などライツ管理のお話も伺えたらと思うのですが。

鈴見:Rody』はJAMMYという会社でやっているのですが、もともとずっとラナでライセンシーという立場でやってきて、やっぱり自分たちでキャラクターを育ててみたいなというのはありまして。たぶんそれは、どのメーカーさんも思っていることだと思うのですが。

内山田:ありますね、それは。

鈴見:かと言って、その難しさもよく知っているし。会社の中でクマだのネコだのかわいいものも描けるとは思いますが、ではそれが売れるか?と言ったら別問題なわけで……。そんな時にたまたま「Rody」のライセンス管理を行うチャンスをいただきました。これ、イタリアで作られている、もとは子どもの為のフィットネス用のバランスボールなんですよね。アニメでもなければ絵本でもなくて、この乗用玩具という「おもちゃ」だったんです。その「Rody」を『キャラクター』という位置づけで権利窓口を預けていただき、今では日本をはじめ、アジア、世界での版権をうちで預かっているという状況です。「イタリア生まれの日本育ち」というところですね。ジャミーはRodyだけで8年間やってきましたが、昨年からはデンマークの国民的クマのキャラクター『ラスムス クルンプ』をやり始めました。向こうで65年の歴史があるキャラクターなんですよ。

内山田:鈴見さん自身としては以前から興味を持っていらしたんですか?

鈴見:いえ、たまたまデンマークの会社の社長2人と食事をしている時に「デンマーク大使館で『ラスムス クルンプ』の話題になった」と聞いたので、調べてみたらかわいくて。で、大使館を紹介してもらい1年かけて契約を結びました。スタートからちょうど1年が経ちました。

内山田:先ほどご自身で「しつこい」と言われていました。自分の時間軸の中で耐えられないと、投げ出してしまう人もいるじゃないですか?

鈴見:そうですね。しつこさに加えて諦めも悪いんですかね!?(笑)今は、それ以外ではアメリカの工具メーカー『Snap-on』のプロモーションや、『Red Bull』のイベント系の商品化をやらせてもらったりしています。

内山田:でも、「Rody」のような優しいキャラクターを長い期間かけて育てて行くプロジェクトから、「Snap-on」の工具ブランドのプロモーションまで幅広く手掛けられるのは鈴見さんの感性が柔軟だからと思えるのですが、共通している『こだわり』とは何でしょうか?

鈴見:こだわりね……何だろ。(笑)

内山田:「面白ければいいや」というだけでは無いような気もしますが……?

鈴見:いや、でもうちの中でもよく言うのが、ライセンサーの立場で商品化の判断基準のひとつが「イケてるか?イケてないか?」ということです。

内山田:あぁ、もう直感的に。

鈴見:そう、直感的に。で、単純にライツ管理するだけじゃなくて、例えば「Snap-on」のビジネスモデルってすごい面白いんですよ!ではそこに、どういう風にうちが体を合わせればいいかな、というのは本能的にわかるんですよね。

内山田:わかります。合わさせるのではなく合わせていくということですね。

鈴見:昔、先輩社長から「先見性は必要だぞ」とよく教えられたけれど、今は先見えないでしょう?僕はどちらかと言ったら、柔軟性ですよね。その体をどう合わせて行くか?という柔軟さと、スピード感。これは意識していますよね。

内山田:ニュアンスを見極めるセンスというか。また、合わせ方のバランスというか。

鈴見:そうですね。いやぁ、面白いですよ。親父がもし亡くなっていなかったら、親父の会社継いでいたかもしれないし、さっきの円谷さんの話もそうだけど、何かのタイミングがひとつ違っていたら変わっていたと思うし。この先も分岐点が出てきた時に間違わないようにしなければとは思っています。

内山田:このインタビューで皆さんに聞いているのですが、鈴見さんは達成感を感じる時ってありますか?

鈴見:難しいなぁ……。企画を考えて、仕込んで、成果が出た時に、「してやったり!」とは思いますよね。

内山田:でも、それは「してやったり」で、「達成感」とは違うんですかね?

鈴見:もう、次、次、次のプレッシャーですよね。「これを超えるものを作らなあかんな」というプレッシャーの方が、どちらかと言ったら大きいですよね。

内山田:やっぱりそういうことなんですね。だから走り続けて行けるのでしょうかね。

鈴見:そうですね。今年で28年目で、よく会社は30年と言うじゃないですか?そういった意味でも、早く次の世代に移して行かなければだめだろうし、ここ数年はそれを意識していますね。それができて、上手くバトンタッチした時、会社の経営としての達成感を感じるのかもしれない。売上や利益が上がって、ある程度落ち着いてきても、どこかまだ不安を持ったまま安泰だと思うことはなかなかないし。上手く落ち着いてきたら何か新しいこと、やりたくなってしまう。(笑)ずっとそうですね。

内山田:少し余計な話かもしれませんが、一人のオーナーとして30年近くやられてきて、鈴見さん的に2代目へ継ぐ、大事にしていることとは何でしょう?

鈴見:僕は、自分の子供に会社を継ぎたいという気持ちは全くないです。自分自身が親父の会社に入った時から、そのしんどさは見てきていますし。できる人間がやればいいと思っているので。もしそれが自分の子供であれば、子供がやればいいと思いますが。

内山田:それは僕もすごく共感できて、僕も幼い頃に親父の会社が経営を失敗して、いろいろ苦労をしているのを見てきているので。それでも母親はよく頑張って育ててくれたと思うのですが、やっぱりその……当てにしていないというのかな。自分の道は自分でつくって行くしかない、と思っています。

鈴見:そうそうそう。それの方が面白いしね。

内山田:だからそのままそっくり継ぐよりは、自分の道で行った方が得られる答えが違うというか、手応えがあると思うんですよね。

鈴見:絶対そうだと思いますよ。ほんとにお金だけじゃないしね、苦労も含めていろいろなことをやって、失敗もして、それが人生楽しいんだってことを、子供に伝えないとだめだと思っています。

内山田:最後にもうひとつだけ商品のことを聞きたいのですが、「スター・ウォーズの浮世絵」はすごかったですね!

鈴見:すごかったでしょう!あれは、一般発売に先駆けてクラウドファンディングで発売したのですが、結構な反応でしたね。いろいろなチャネルで売るというのを通り越して、ああいう形も面白いですよね。

内山田:ただモノを作りました、流通しましたではなくて、その手法がさらに付加価値が高まったかもしれないですね。

鈴見:そうなんですよ。あそこにいる(商品を指して)『いきむ犬』はうちのオリジナルで、まさにそのままなんですが。(笑)これは日本で先に出さずに、アメリカのKickstarter(クラウドファンディング)向けにサイトを作って、資金調達したんですよ。目標額もちゃんと上回りました。この前カプセルトイも出したのですが、これから注目ですよ!(笑)

内山田:今後、鈴見さんとしてラナさんという会社をどのようにして行きたいとお考えでしょうか?

鈴見:今、グループ会社が7社あるのですが、今後それはそれぞれに任せて、僕自身はホールディングスの代表として動いて、一つの会社にあまり軸足を置かないようにしなければだめだなと意識しています。グループ全体として「どういうことができるか?」を考えて行きたいと思っていますね。

内山田:最後に、鈴見さんの「エンターテイメント」とは何でしょう?

鈴見:エンターテイメント事業はすごい興味がありますよね。キャラクターの雑貨メーカーとしてスタートはしていますけど、そのキャラクターの雑貨商品に留まらないで広がることができるのが、キャラクターの魅力の一つだと思うのです。例えば、Rodyを使った「Rody Yoga」というものがあって、日本に先生が100人以上いて、あちこちでヨガをやっていたりするのです。そういった面で、キャラクターの域に留めないで、キャラクターの力を一つ変化させることができれば……ワクワクするじゃないですか。そういう意味では、キャラクターの可能性はまだまだあると思っています。

内山田:今日のようにいろいろなお話を伺うと、こちらの見方も変わってくるというか、視野が広がります。視野が狭いところ同士で付き合ってしまうと、どうしても生まれるものも小粒になってしまう。そういう意味ではうちももっと角度を拡げられるように頑張って、お互いもっと良いパフォーマンスができたらと思っています。

鈴見:いろいろやりましょうよ。

内山田:ぜひぜひ。こちらもワクワク感が出てきました。本当に今日はありがとうございました。

鈴見:こちらこそ、ありがとうございました。