2022年11月から12月にかけて、歌舞伎座では「十三代目市川團十郎白猿襲名披露公演」が上演されました。本来なら令和2年5月から7月にかけて行われるはずでしたが、当時、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための緊急事態宣言により、延期となっていました。
約2年半経って、やっと。やっとです。
まだまだ歌舞伎ファンとしては若輩者ですが、万感の思いで、新團十郎さんの舞台を拝見しました。
特に、歌舞伎十八番の「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」は、二か月連続上演で、新團十郎さん以外の配役を変えるという斬新な手法でした。同じ狂言を日を開けずに見られることは滅多になく、同じお役でも演じる人が変われば違いがでるので、大変興味深かったです。
八代目として市川新之助を襲名した勸玄くんの「外郎売(ういろううり)」や「毛抜(けぬき)」も大変に立派で、役者の成長と芸の伝承を見続けられるのも歌舞伎の魅力だなあと感じました。
さらには緞帳も襲名用の特別仕様。幕間にはたくさんの方が写真を撮られていました。
歌舞伎座名物の「めでたい焼き」も、いつ行っても完売で買えませんでしたが、これも嬉しい。本当にね、賑やか!そして、華やか!
コロナ禍から早や三年。歌舞伎界も苦境に立たされました。
観客からしても、楽しみを奪われた苦い記憶は今でも残っていますし、今でも急に中止になるんじゃないかとビクビクすることもあります。
そして時々思い出すのは、歌舞伎座が再開した夏の日の光景。
ぽつりぽつりと空いた客席、わずかな身じろぎすら響いてしまうほど静寂に満ちた劇場内。誰しもが緊張していて、息をするのも憚られるくらい。そうして開いた幕の向こうには、少し前までは当たり前にあった舞台がありました。当たり前じゃなくなったことを痛感し、だからこそ、幕が閉まるときの拍手はうるさいほど大きくて鳴りやまず、目には涙が浮かんでいました。泣くような演目ではなかったのに。
この忘れられない光景から、一歩ずつ、小さな一歩でも歩みを止めず、少しずつ少しずつ、いまも前に進んでいます。
緊急事態宣言のなかで「何かできないか」と、様々にチャレンジしてきた歌舞伎役者たちをたくさん見てきました。配信を使った歌舞伎の上演、YOUTUBEチャンネルの開設などSNSでの発信も増え、いまではインスタライブを定期的にやってくれる若手もいます。
ピンチをチャンスに変えることを体現する人たちを見て、自分も少なからず影響されました。だいそれたことではなくても、ほんのささいなことだとしても、考えることと動くことをとめないこと。続けるのは本当に大変ですが、何もしないよりは何かが起きるかもしれない。
「十三代目市川團十郎白猿襲名披露公演」は、本当にいろんな思いの詰まった二か月になりました。来年は巡業や地方公演も控えて、まだまだ襲名披露は続きます。ぜひたくさんの人に成田屋の「にらみ」を経験してほしいです。