赤司竜彦

株式会社メディコム•トイ
代表取締役社長 赤司竜彦氏

PROFILE

1996年メディコム・トイを設立。「マーケティングに基づく商品開発ではなく自分達が欲しいものを作る」をコンセプトに、映画・TV・コミック・ゲームなどクオリティを重視した幅広い分野のキャラクターフィギュアを企画製造。2001年にはクマ型ブロックタイプフィギュア「BE@RBRICK」(ベアブリック)を発表し、国内外の多くのアーティストやブランド、企業、キャラクターなどと多彩なコラボレーションを広げている。その他にもアパレル、雑貨など多岐に渡る事業を展開中。これまでに数千種類のアイテムをマーケットに発信し続け、「アートなトイ」として、世界中に多くのファンを獲得している。
来年でメディコム・トイ設立20周年、BE@RBRICKは15周年を迎える。

http://www.medicomtoy.co.jp/

「商品は知っているけど作っているメーカーのことは知らない…」「どんな人がこの商品に関わっているのだろう…」そんな商品を製造している企業や人たちにフォーカスを絞って紹介するインタビュー企画。第三回目のゲストは、その思考や動向がファンならびに業界関係者も気にならずにいられない、ご存知 株式会社メディコム•トイ 代表取締役社長の赤司竜彦氏。柔らかに、そして確かに語ってくださったお話の根底にあるものは、ご自身が感じて来た「おもしろいこと」という感覚で、感謝と愛情で満ち溢れていました。ピュアな心を持った大人男子2人の盛り上がりにも注目なロングインタビュー!

[スピーカー]
株式会社メディコム•トイ  代表取締役社長 赤司竜彦氏
株式会社カフェレオ 代表取締役 内山田昇平
取材日:2015年5月8日 場所:メディコム•トイ
構成:里見亮(有限会社日本産業広告社)

ワクワクしていますね。自分的に「これができたら欲しいな」という目線でものを作っていますね。

内山田昇平(以下/内山田):今日はお忙しいところをありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。

赤司竜彦氏(以下敬称略/赤司):こちらこそ、よろしくお願いいたします。

内山田:今回、なぜこのようなお願いをしたかと言いますと、僕たちのビジネスは付加価値ビジネスだと思っているのですが、卸業をやっていると価格や納期だけのスペック優先になってしまうんですね。「右から左へ」の作業となってしまうことをすごく危惧していまして

赤司:モノが流れて行くだけになってしまいますものね。

内山田:そうなんです。こういう企画にトライすることで、卸だけでなくいろいろな取り組みをやって行こうということをスタッフたちに意識付けさせたいと思っていまして。商品だけでなく様々な情報も流通させよう!ということで今日はお時間を頂いた次第です。

赤司:社長の企画なんですね。おもしろいですね。

内山田:ありがとうございます。今日を迎えるに当たり、過去のインタビュー記事などいろいろ拝見しましたが もう聞きたいことも出尽くされているなぁという印象もあり(笑)

赤司:常々、どれだけ火傷をせずにやりたいことをやって、きちんとビジネスとして体系化して行けるか?というテーマだけで仕事をしている気がしますね。いつも何かチャレンジしているなぁという印象はありますね。自分の中では(笑)

内山田:メディコムトイさんと言うと、「クール」というか「クリエイティブ」なイメージがあるかと思いますが、実はタイトなトライをされていると思うんですよね。

赤司:そうですね。でも、ぜんぜんクールなんかじゃないですよ。本当に(笑)みんな汗かいて必死に仕事していますから。結果論なのですが、振り返ってみると大変だったなぁということは多い気がしますが、やっている最中は多分キツイなぁと思いながらやってないんですよね。誰も。

内山田:楽しいというかおもしろいという感じですか?

赤司:ワクワクしていますね。そういった意味では。こんなことやったら驚くだろうなとか、自分的に「これができたら欲しいな」という目線でものを作っているので、タフなネゴシエーションだぜ!的な感じはないですね。ブルースウィルス的な感じは(笑)

内山田:サプライズなアイテムが多いですよね。

赤司:そうですね。人に驚いてもらったり、喜んでもらったりすることが好きなので、そこに集約したモノ作りを結構やっている気がしますね。何でもいいのですが、飲料メーカーのCMのアレがカッコ良かったからああいうのを作ろうかとか、今Sex Pistolsのグッズがあったらおもしろいよねとか。よく、5年先10年先のビジョンは?と聞かれるのですが。おもしろいことを常にやり続けられる環境を作って行きたいというのは、何十年も前から変わらないのですが、反面、5年先のエンタテイメントの未来が見えれば誰も苦労しない訳で。その辺りはいろいろ考え、調整しながら日々仕事をしている感じですね。

内山田:赤司さんの中で、会社を設立された時と今では、感覚みたいなものは変わりましたか?

赤司:以前とある社長に、「会社って、放っておくとどんどん大きくなるから気を付けないといけないよ」と言われて、そりゃあそうだなぁと思ったことがありまして。仕事が上手く行き出すと、ここに人が足りない、こういうことがやりたいとか、経営者って欲望が膨らんで来るんですよね。でも、全部を見渡せる訳ではないし。「信頼できるチームのスタッフをそこに編成できるか?もしくは今の自分のフィールドの中でどれだけ仕事の精度を高められるか?というところに集約して行く方が遥かに大変なんだよ」と伺って、確かにと思いました。どれだけ会社の規模を大きくせず、且つ仕事の精度を上げて、きちんと会社が維持、運営して行けるか?この辺に気を使うようになりましたね。

ものを作ること、それを手に取れること、その喜びみたいなことがすごく大きくて…。

内山田:一番最初にブレイクした『ルパン三世』は、量産品だと思うのですが、初めから流通はあったのですか?

赤司:なかったです。作りながら一件ずつ問屋さんを歩きました。

内山田:そうなんですね!

赤司:おもしろかったですね。こんな世界もあるのか!と。当時、コンピューターの仕事をしながら、その中の一事業部として始まったのですが、コンピューターの世界からおもちゃの世界に軸足をグッと踏み替え、「メディコム•トイを作るぞ!」と腹を括った時、ものを作ること、それを手に取れること、その喜びみたいなことがすごく大きくて…。「おもちゃの仕事で生きて行くんだ」と決めましたね。もうかれこれ21年前の話ですが。
メディコム•トイが誕生する前年の1995年は、“ホビー商品の曙”な頃で、『Spawn』や『エヴァンゲリオン』が生まれて。その頃、今でもお付き合いのある大切な版権元様から「赤司君、大変なことになるよ!きっと」とお電話をいただいたので「何がですか?」と聞いたら、「多分来年ぐらいから、このフィギュアのムーブメントが大騒ぎになるよ!」と。

内山田:えっ、もうその時言われていたのですか!

赤司:言われていました。そこから2000年くらいまでの4年間がすごい競争の時代で、メーカーさんも雨後の筍のように出て来ましたね。先程カフェレオさんが2001年に設立されたと伺ったのですが、丁度その頃はフィギュアブームが一回底を打った頃だったんですよ。反面、ネットでの商品の流通みたいなことにみんなが目を向け出した頃でもあり、何となくマーケットの推移とカフェレオさんの誕生辺りがシンクロしていますね。

内山田:確かに、そうですね。メディコム•トイさんは、完成品のフィギュアメーカーという部分で言うと、パイオニア的な位置ですよね。

赤司:どうなんでしょう…。パイオニアと言いますか、作品としてもうO.A.が終了している作品、あまり目を向けられなくなったものに対して、もう一回目を向け、もの作りをしてみよう!という着眼点で作り出したのは、もしかするとうちが最初かもしれないですね。

内山田:2003年ぐらいですかね?BE@RBRICKが市場を席巻したのを拝見していました。初めからグンと行った感じでしたか?

赤司:行きましたね。ちょっと想像を超えていましたね。当時は、3万個売らないと大変なことになると言ってました(笑)

内山田:でも3万個も結構大きい数字ですよね。

赤司:そうですね。それが、今では累計数千万個くらい売れていますからね。

内山田:数千万個!

赤司:もう、クマちゃんと共に生きているなぁという感じがしてるんですけどね(笑)

ナンバー•ワンだとは決して思っていないです。オンリー•ワンとは思っていますが。

内山田:実は、カフェレオの他に、「アルジャーノンプロダクト」というメーカーもやっておりまして。当時、当社に所属していたスタッフがブランケット・プロジェクトさんの担当者の方と懇意にしていただいていたご縁で「ブルーインパルスBE@RBRICK」のお仕事をご一緒させていただきました。

赤司:ありがとうございます。

内山田:こちらこそ。その商品を入間基地の航空祭にて限定で販売したのですが、この時、商品の力というものをすごい感じたんですね。目当てはみなさん飛行機を観に行くことで、客層も違うし、そこで販売するという情報もあまり広まっていなかったと思うのですが…これがすごい口コミになりまして!「おもしろいBE@RBRICKが売っている!」と。アルジャーノンブースはどこだ!とみなさんで入間基地内を探し回ってくださったという(笑)

赤司:楽しいですねぇ、いいですねぇ。素敵なことです!

内山田:そうなんです。おもしろくて、素敵で!で、ちょっとユニークなのが、ヘルメットに1から6とナンバリングしていまして。アクロバットで回転して機体が逆さまになるので、5番機だけ数字も逆さまになっているんです。

赤司:素晴らしいアイディアですね!

内山田:だから売れて行くのも、リーダーの1番機、5番機という順でしたね。

赤司:なるほどなぁ。嬉しいですね!

内山田:この製作で当時のスタッフたちと一緒に携わったときに感じたのですが、BE@RBRICKはつくづく完成度の高いデザインなんだなというのを感じました。こういう話をするのも何ですが、コピーされたり企画的に近い商品も正直たくさんありますよね?

赤司:ブロック•タイプのフィギュアで「何も付けない、加えない」というコンセプトを思い付いた時に、これをどうやってしっかり広めて行くか?というのが最初のステップで、2つ目は、クオリティを如何に落とさずにマーケットを席巻できるか?ということに注力して、彼(BE@RBRICK)のマネジメントをして行くことで、ずっとそうして来たこと自体が、似たような商品、競合商品にうまく勝って来てくれた要因だったのかなぁとは思っているんですけどね。

内山田:なるほど。赤司さんのメディアなどを介しての印象は、非常に“穏やか”というのが僕のイメージなのですが、コンペティター(競合者)などは意識しないんですか?

赤司:あまりしていないですね。

内山田:それは自信があるから?

赤司:いや、違うんですよ。何だろう…横を向いている暇がないので。勿論、似たようなものがあると、それはそれで被らないようにしていますが、「相手の手を見てカードを出す」といったことはやらないですね。本当に。それをやり始めるとキリがないので。ニーチェの言葉で「おまえが深淵を覗く時、深淵もまたおまえを覗いているのだ」だったかな?いつの間にか取り込まれてしまうんですよね。

内山田:それが結果的に、オンリー•ワンな商品を生み出していることへ繋がるのでしょうね。

赤司:ナンバー•ワンだとは決して思っていないです。オンリー•ワンとは思っていますが。

内山田:この業界、どこかでマイノリティなところがないとだめかと。

赤司:ですね。適度なマイナー感は絶対必要ですよ!だって、そうしないとおもしろくないので。そういう意味では、カフェレオさんもそうじゃないですか?流通の世界で。間違いなくオンリー•ワンだと思っていますよ、僕。

内山田:ありがとうございます。僕も初めはパソコン業界に居て、いろいろな経緯があってこちらの業界に来たのですが、最初の頃は周りから、「内山田、大丈夫か?」という目でずっと見られていましたからね(笑)

赤司:「モノを抱えるような仕事して大丈夫なのか?」みたいな。

内山田:そうそう。どちらかといえば「マイナーな業界で本当に食べて行けるのか?」と。

赤司:あっでも、僕も言われていましたね。「何やっちゃってるんだ?あいつは…」と(笑)

内山田:(笑)マーケットは小さいじゃないですか?この業界。でも本当に、継続してやって来て良かったなぁと思うのは…、やっぱりおもしろいですよね、この仕事。

赤司:ええ、そうですよね。YMOのメンバーが解散するちょっと前くらいに、「日本で100万枚売るのではなくて、30カ国で3万枚ずつ売れる仕事がしたいんだ」と仰っていて、あぁすごく大事だなぁという気がして。おもちゃって今まさにそれになっている気がしてるんですよね。本当にいろいろなテリトリーのいろいろな方に対して、それこそ適度なマイナー感を含めて、“カッコイイ”と思ってもらえる商品があるのです。それにより僕も、「こんなことやりたいんだけどな!」という、触発してもらえるような種を蒔き続けている、そんな感じがしていますね。なんか、そんな風に仕事がし続けられると、常におもしろい方と仕事ができるきっかけになっていいなぁと思っていますね。

そこでリスクを取れるかどうかで、多分その人の運命って変わって行くと思うのです。

内山田:製造に関する話もぜひ伺いたいのですが、赤司さんは工場とのやりとりというか、中国工場まで行っていたのですか?

赤司:行っていましたね。でも、初めから中国生産だった訳ではなく、初めは全部日本生産でした。最初の『ルパン三世』とか。

内山田:えっ、そうだったんですか!?

赤司:それこそ異業種から入って来たから、何も解らなかったので。ルパンの有名なエピソードは、ジャケットが布だったのですが、内職のおばあちゃんに「おばあちゃんこれ500枚作って!」と頼んだら「わかった」と言うから、「ほんと!ありがとう!」となって作ってもらったんだけど、100枚くらい作ったところで、「おばあちゃん、もう作れないの…」と言われて!おいおい勘弁してよ!と(一同笑)今は感謝していますけどね(笑)

内山田:一番最初の海外生産の量産品は何だったんですか?

赤司:いろいろ入り組んでいたので、確か…あっそう、『鉄人28号』ですね。

内山田:アクションフィギュアって、作るの勇気いりますよね?

赤司:めちゃくちゃ勇気いりましたね。当時は会社のスタッフ5人ですから。「アクションフィギュア作るから!」と言ったら皆、「えーっ!」って言って顔がサーっと青ざめて(笑)

内山田:赤司さん的には資金面など計算された上での決断だったのですか?それとも結構勢いというか「やっちゃおうか!」みたいな感じだったのですか?

赤司:その時初めて、銀行の融資の申込書を書きましたね。「イケる!」という勝算があったんでしょうね、きっと。多分、あの頃のイケる!は、今のイケる!とはぜんぜん違うと思いますけど(笑)無謀だったと思いますよ。でも、あの時リスクを取っていて良かったなと思うことはたくさんありますね。今でもそうですけど、何の仕事をする時も、最初に始める時って間違いなくいろいろなことにリスクがあるんですよね。そこでリスクを取れるかどうかで、多分その人の運命って変わって行くと思うので。それは内山田さんや僕に限らず、皆さん(スタッフ)にも言えることだと思うんですよね。

内山田:誤解を恐れずに伺うと、赤司さんの人脈とか、BE@RBRICKも含めてやられたこととか、どういうルートを使ってこういうことをビジネスにされたのかなと純粋に思いまして。本を拝見したら、「一つ一つノックして…」と書かれていたのですが…。

赤司:一つ一つ、ですね。

内山田:YMOさんも元々お知り合いだけども、仕事で関わる時にまた一から、正規ルートとしてコンタクトを取られていたんですよね。「正規ルート」と言う表現もおかしいかもしれませんが…。

赤司:元々ルートはなかったんですけどね。YMOが当時、マーチャンダイジングをやるとは誰も言っていなかったので(笑)

内山田:逆に、正規ルートというか、正面からコンタクトを取られるからこういうビジネスが出来たんだろうなと改め勉強させてもらい、感動しまして。僕もこの業界でいろいろなお付き合いがありますが、結構ショートカットしたがる方も多いと思うんですね。「紹介してください」とか。でもやっぱり、正面から行った方が意外と早かったりすることありません?

赤司:それはありますね。あと、紹介された人のバイアスがかかるので、かえってややこしくなることもありますからね。「何を作ったらおもしろいかな?」というところから、「じゃあ、これを作るためにどうしたらいいのだろう?」と逆引きで作って行くのですが、割とそんな感じが多いですね。もの作りとしては。

でも、多分僕は、思考が“幕の内弁当”なんだと思います。

内山田:リアルアクションヒーローズからBE@RBRICKまであって、商品も作ればイベントもやる、一方で店舗も運営されていろいろある中で、赤司さんの頭の中では整理されているのでしょうか?

赤司:かなりはっきり線引きされていますね。お店にお客様が来て喜んでくださるのも嬉しいですし、イベントをやることでのお祭り的な空気も悪くない、勿論もの作りでお客様が手に取ってくださり、びっくりしてくれる感じも嬉しいし、結果的にうまくその辺り全部がこう…

内山田:繋がっていると。

赤司:そうなんですよね!頭の中で、幕の内弁当みたいになっているんでしょうね!あまり考えたことはないですけど。

内山田:(笑)でも人によっては、整理できなかったり、これ一つで手いっぱいとか…

赤司:「シャケ弁でいいんだ!」っていう人もきっといるんですよ(笑)それはそれでおいしければいいんですよ!「シャケ弁作ったけど次は唐揚げ弁当や!」これもアリだと思っています。でも、多分僕は、思考が幕の内弁当なんだと思います。

内山田:BE@RBRICKも発売してもう来年で15年ですか?

赤司:15周年ですね。

内山田:すごいですねぇ。一つのアイテムが、10年15年続くなんて! 「商品自体がキャンバス的なフォーマット」という発想が、クリエイターの人たちを「いじりたい!」とさせるのでしょうね。

赤司:「触りたい」と思ってくれることはすごい大事で、今、本当におもちゃの完成度がどんどん求められているじゃないですか?ある意味それは大事なのですが、ただ、想像力の入る隙がそこには全くないので。一方で、「自分もやってみたい」と思う参加型のもの…DIYの方向がデザイン•フェスティバルとか、あっちの方に行っていますよね。今すごい応募があるらしいんですよ。皆、何か「やってみたい!」という気持ちが、今すごい強いと思うんです。BE@RBRICKは、その気持ちの立体型プラット•ホームとして機能してくれる一つになってくれると嬉しいですね。

続けられる環境を作ること、ここが一番大事だと思っています。

内山田:BE@RBRICKは完成された一つのフォーマットに成長されたのではないかと思われるのですが、一方でソフビもトライされていますね。

赤司:4〜5年前からだったかなぁ。最初は、日本のインディペンデントのメーカーさんがおもしろいことをやっていると人伝手に聞きまして。いくつか買ってみたら本当におもしろくて。自由な発想のところとか。「こんな世界があるのか」と再発見があったのが一つと、いくつかのメーカーさんのOEM商品を扱わせていただく中で見えて来たことが、日本の成形業界というものがマーケット的にどんどん高齢化していることとか、10年後20年後にはなくなってしまうかもしれないというお話を聞きまして。自分はソフビがおもちゃの原体験としてあったので、それは寂しいぞと思って、そこからですね。まずはやってみようというところから始めたような気がしますが、業界事体が抱える構造的な問題点というのは、「継続的なお仕事がないことが一番の問題」というところに気が付きまして。ならば、継続的にお仕事を工場に対して供給できる環境作りということがタスクとしてあるなと思いました。きちんとコンテンツを取って、それを動かして行くようなビジネスにしなければだめだと思い、東映さんにご相談に行きました。仮面ライダーの『東映レトロソフビコレクション』の頃ですね。あの辺が、きちんと、自覚的にソフビのマーケットに何かやって行こうと思った初めだったと思います。

内山田:僕、びっくりしたのが、去年のワンフェスの時かな、個人ディラーのブースで赤司さんが、買いまくっているわけですよ(笑)

赤司:あれは個人的な趣味ですよ(笑)なんか…すごく楽しいですね。自分の中では、80年代のバンド•ブームの頃に近いなぁと。

内山田:ちょっと乱立した雰囲気ですか?

赤司:そうそう。インディーレーベルがたくさんあって、「ここから何が出た!」みたいな、ああいう感じに近いなぁ、楽しいなぁと思っています。
ちょっと話は変わりますが、今、自分でやっている『VAG (Vinyl Artist Gacha )』というプロジェクトに関して言えば、ソフビはおもしろいからもっとみんなこのマーケットに遊びに来て欲しいし、参加して欲しい!と。そういったところが、通底しているコンセプトとしてありますね。

内山田:うちのオフィスの一階でギャラリーをやってましてですね…

赤司:あっ、『指人形展』をやっていましたね!アレ僕行きたかったんですよ!

内山田:もう何と言うか、カオスと言うか…おもしろいイベントだったんですけど!僕も初めは半信半疑で…

赤司:まぁ、半信半疑ですよね。当たり前だと思いますよ(笑)

内山田:そこで数名のクリエイターさんのソフビを販売させていただいたのですが。個人的にもかっこいいな!とは思っていたのですが、お客様が殺到して、すごい勢いで買って行くのを見た時に、「あぁ、こういうマーケットってあるんだなぁ」と再認識したんですよね。

赤司:狭いんですけど、狭くて熱いマーケットって、必ず広まって行くんですよね。昨年くらいからイギリスとかタイで「ソフビ作っているんです!」と門を叩いてくれる方が居て。えっ、タイでソフビって作れるの?(笑)というところから始まり、扱わせていただいたりして、ちょっとずつ、ちょっとずつ、国境すら越えて飛び火してくれているなぁと感じて、本当おもしろいですね。そういう意味でも、続けられる環境を作ること、ここが一番大事だと思っています。
だから、アルジャーノンプロダクトさんのもの作りとか、カフェレオさんの営業力とか流通力といったところを素材に、何を作ったらおもしろいのか考えて、今度一緒に仕事してみたいですよね。

内山田:ですね。ご一緒できたら嬉しいですね!ぜひお願いします!

赤司:ぜひぜひ。

未来はあなたたちのものだし、逆に何が大事で、これから何をしてくれるのか?本気で観たいと思っています。

赤司:話はちょっと変わりますが、なぜ社名を『アルジャーノンプロダクト』にされたのですか?

内山田:小説の「アルジャーノンに花束を」からです。あのストーリーは何を謳っているのかな?と考えた時に、僕なりの解釈としてですが、例えば頭が良いのがいいのか?仲間がたくさんいる方がいいのか?など、「価値」というものは人それぞれが見出すものではないかなと思いまして。マイノリティという部分に僕は価値を置きたいという想いで、「アルジャーノン」と名付けました。カフェレオでは商社的な位置付けとして企業力を求めてしまうのですが、アルジャーノンの方は、自分たちの中でおもしろいと思うものにこだわりたいと、社員にも伝えていますね。

赤司:なるほど、そこから来ているんですね。素晴らしいなぁ。

内山田:ありがとうございます。
僕は、赤司さんがやられていることは凄いと思いますし、30歳の時に会社を立ち上げたんですけど、会社としても人生としても先輩の赤司さんを見ていると、やっぱり一手が絶対的に早いとすごく感じるんですね。

赤司:僕も会社を立ち上げたの30歳の時ですよ。

内山田:あっ、そうなんですね!

赤司:僕は、先見性があるとかそういうことでは全然なくて、「やりたい!」と思った時のファースト•タッチが早いんですよ。多分。これをやらないとそのマーケットは絶対成功できないので。唯一、後手で始めたのがソフビですね。どちらかというとマーケット自体を何とかしたいと思って始めたという意味で。

内山田:うちの会社は、卸としては珍しい形態と思っていて、WEBサイトでの情報発信なども、やらなくてもいいと言えばいい訳で。でも、普段たくさんのコンテンツを扱わせていただいていて、何にもやらないのもそれこそ損だろうと思っていまして、今いろいろな取り組みを行っているのですが、そうやってサイトから商品情報を発信して行くと何らかの反応があるんですね。

赤司:当然あるでしょうね。

内山田:その反応の中で、うちのスタッフたちもやっぱりそれが楽しみになって来るというか。こういうことはもっと積極的にやって行かなければいけないなと思っています。

赤司:ですよね。誰だったかな、「会社というのは絶対2階建てじゃないとだめなんだ。1階はご飯を食べるために一生懸命働く場所で、2階は眺めの良い景色をみんなで観れる場所として作らないとだめなんだ」と言う話を聞いて、いいこと言うなぁと思ったのですが、やっぱり社長が、「こんなことやりたいんだ!」とか「俺はこっちに行くんだ!」というビジョンを見せてあげるとみんなそこに向かって希望を持ってもらえるし、楽しんでもらえると思うんですよね。その中で、どれだけこの人は有言実行なんだ、結果出してくれるんだと見えて来ると、「この会社楽しいな」と連鎖して来る気がしますね。

内山田:赤司さん個人としては、今後どのようなことをやって行こうと思われているのですか?

赤司:自分が受けた影響とか、過去のカルチャーとか、どうやって自分のファクターを通して、それをもう一回世の中に出して行けるか?みたいなことは考えていますね。というのは、自分が受けた影響からは逃げられないんです。皆さんもそうですよ(笑)特に、1521歳の間に受けた影響はDNAに刷り込まれて、一生逃げられないんですって。その頃のミュージシャンであり、本であり、カッコイイと思ったことの根底からは。そうかもしれないなぁと思いましたね。

内山田:そういう意味で言うと僕はラッキーで、21歳の時に勤めた会社がパソコンのショップだったんですよ。その時、AppleMacintoshを売っていたのですが、その出会いが大きくて。また、そのMacを使っている先輩たちがまぁカッコ良くて。クリエイターと言うのは漠然とこういう人たちのことを言うのかなと。作っている中身よりそのスタイルがカッコ良かったですね。

赤司:21歳のMacは大きいと思います(笑)やっぱり、当たり前ですが、子供だから形から入るんですよね。その時のMacを使ったプログラマーとかエンジニアとかグラフィッカーとかカッコよかったですものね!

内山田:世代的にはいい時代を生きさせてもらったと思っています。

赤司:本当、それは思いますね。今の若い子たちからすると、「別におまえたちの時代だけがいい時代な訳じゃないぞ」と思われるのでしょうが、逆にそう思ってくれないと困るんです。未来はあなたたちのものだし、じゃあ逆に何が大事で、これから何をしてくれるのか?というのを本気で観たいと思っています。自分の世代を自分たちが誇りに感じることは、僕はすごく大事なことだと思っていて。そこからは逃げられないから、その中で何を表現してものを出して行けるか?みたいなところがこれからも変わらないテーマになって来る、そんな気がしていますね。

内山田:ちなみに唐突ですが、赤司さんは達成感を感じることありますか?

赤司:うーん、どうだろう。ありますけど、時間で言ったら15分くらいですかね、感じるのは。それ以外にもやりたいことたくさんあるので。

内山田:なるほど。

期待を裏切らずに、予想を裏切れ

内山田:では、最後に、メディコム•トイさんの今後のテーマを聞いてもよろしいですか?

赤司:よくスタッフに言っているのですが、「期待を裏切らずに、予想を裏切る」ですかね。おもしろいなと思い続けてもらえるようなもの作りを、続けて行けたらなと思っています。自覚的にものを作って行きたいとすごく思っていますね。

内山田:当社もそういった作り手の想いとか発想みたいなものを、そのままパッケージして流通するお手伝いができるようになればいいなと思ってはいるのですが…

赤司:カフェレオさんがインフラ的な機能を持って、且つビジネスとしてみんながハッピーになれるシステムを作ることが、内山田さんの次のタスクでは?とお話していてちょっと思ったりしましたね。

内山田:ありがとうございます。一つ宿題をいただきまして。大き目の(笑)

赤司:むっちゃ大きいって!それができたら誰も苦労しない(笑)

内山田:がんばります!今日は本当にありがとうございました。

赤司:こちらこそありがとうございました。